2023年 M1グランプリの考察 – ネタ中のボケは何回が適切か? –

2024/01/21M1グランプリ,データサイエンス,データ分析の活用,統計

はじめに

私は普段、M1コンサルタント・M1サイエンティストをやっている者です。
自分たちでM1優勝を目指す傍ら、M1に出場する芸人さんのコンサルもしています。

毎年やっているM1分析の連載も、早くも3年目となりました。過去には、審査員の評価の相関関係やクラスタリング分析の結果から、M1グランプリの戦略を検討しています。(過去の記事はこちら

本記事でも、過去の分析方針を踏襲しつつ、新しい示唆を得られるように、M1の戦略について定量的に分析していきましょう。定量的に分析するという観点から、審査員ごとに各コンビに対する得点が得られるている決勝戦1stラウンドの分析がメインにはなりますが、考察として決勝戦の最終決戦についても触れていきます。

本記事の内容

過去分析の振り返り

昨年までの分析によって得られている示唆をまとめると、下記のようになっていました。

2021年
・重要な審査員は松本人志ナイツ塙であり、彼らの得点を上げようとする事が重要。
 具体的には、 「定番の漫才で、後半にボケを増やしていく」 べき。

2022年
山田の評価は、気にしなくて良い。(彼女の評価基準は全体の傾向と異なり、とはいえ全体得点が高いコンビにはしっかり高めの点数をつけるため)
博多大吉も、あまり気にしなくて良い。(得点のばらつきが小さく、嫌われても好かれても差が付きにくいため)
・重要な審査員は、サンド富澤中川家礼二。「コンスタントに笑いを取りつつ、大きな笑いを前後半でしっかりと用意している」事が重要。

各年で、重要人物/気にしなくて良い人物が示唆されています。また、ボケの多さや、後半でしっかりと笑える内容になっているかどうか、という点が重要だということもわかります。

2023年の分析では、上記の示唆が得られるのか、また、変わった部分はあるのか、経年的な考察も行っていきましょう。

分析の前に

昨年から変更のあった審査員は、海原ともこのみです。昨年の記事で評価のおかしさを指摘した山田邦子は、今年で2年目の審査員となりますね。

また、今年のM1のキャッチコピーは、「爆笑が、爆発する。」だったそうです。このこともあってか、審査員の評価コメントには、「爆発しなかった」などというような文言が複数回出ていました。年によって審査の評価基準が大きく変わることは考えにくいため、キャッチコピーが審査の評価基準に大きな影響を与えることはないと思いますが、披露するネタを選ぶときにキャッチコピーを意識するくらいはしても良いのではないかと思います。

基礎分析

基本統計量と分布の確認

まずは、各審査員の評価得点の基本統計量と、分布を確認していきましょう。

            mean    sd min max
山田        91.5  3.37  87  98
博多大吉    90.3  2.54  87  95
サンド富澤  92.5  3.03  88  97
ナイツ塙    91.3  1.42  89  93
海原ともこ  92.8  2.44  89  96
中川家礼二  91.7  1.64  89  94
松本人志    89.5  2.27  86  93
合計       639.6 12.70 620 659

分布の確認には、箱ひげ図を用いてみます。

山田邦子ですが、標準偏差("sd"列、数値のばらつきを意味する)の値が最大になっています。これは山田が、「好きな人には高得点、嫌いな人には低得点をつけやすい」と解釈できます。昨年はこれに加え、山田の得点が全体と相関が低いこと&全体得点が高いコンビには低い得点をつけることはないことから、山田の評点はあまり気にしなくてよいのではないか、と結論付けていました。この時点で、今年も近い傾向が得られています。

松本人志は、評価の平均点が低く、全審査員の評価の最小値も彼がくらげに対してつけた86点となっています。辛口採点であることがわかりますね。

海原ともこは、評価の平均点が高く、甘めの評価をする傾向がある審査員です。標準偏差が目立った値ということもなく、特におかしな審査員ではないように思えます。

箱ひげ図の形状からも、山田邦子の採点のばらつきが大きいことが見て取れます。全審査員の中で最高得点を付けたのも山田であり、さや香に対して98点を付けています。

また、博多大吉のみ、IQR(四分位範囲)ベースで異常値とみなされるコンビがいました。そのコンビは、真空ジェシカです。彼らのネタは、好きな人にはぶっ刺さるネタだと思うので、この結果も納得できます。博多大吉には真空ジェシカのネタがぶっ刺さり、突出した高得点につながったのでしょう。ただ、博多大吉は全体の傾向と近い審査員ではないこともあり、真空ジェシカは残念ながら最終決戦進出が叶いませんでした。

相関分析

各審査員の相関を確認してみましょう。数に出している数値の部分が、行と列でクロスした審査員の相関係数(同じ動きをする程度)を示しています。1に近いほどその2人は評価の傾向が近く、評価が真逆の場合は-1になります。0に近いものはほぼ連動がない、という解釈になります。人によって面白さの基準はことなるものの、M1決勝戦に進むようなコンビニは普遍的なお笑いの要素が一定あるはずであり、基本的には審査員間である程度高い相関が出るでしょう。

では、数値を確認していきます。

合計点との相関が高い(≒全体の評価を集約した採点基準に近い)審査員は、ナイツ塙・サンド富澤・中川家礼二、であることがわかります。こちらの3名は、昨年の分析の結果と一致しており、3名の評価が全体の評価を集約したような採点に近いことが伺えます。

また、合計点との相関が小さい審査員は、松本人志・山田邦子、となっています。加えて、この2人同士の評価の相関係数は0.007と、全く相関がない結果になっています。同じ芸人に対して評価をしているのにも関わらずここまで相関係数が小さくなるという点は大変興味深いものです。この2人は、全体の評価傾向と異なる独自の視点から、出場者を評価していることがわかります。

松本は過去の分析では重要人物と指定していたこともあり無視するとまではいきませんが、2023年に限っていうと、重要人物という感じでもなさそうです。山田はやはり、気にしなくて良いでしょう。

評価コメント分析

ここでは、各審査員のコメントを見ていきましょう。下記に、目立ったコメントを抜粋しました。あまり意味のないコメントについては、記載していません。この時点で若干バイアスがかかってしまっているかもしれませんが、ご容赦ください…。

コンビ名山田邦子博多大吉サンド富澤ナイツ塙海原ともこ中川家礼二松本人志
令和ロマン後半が少し残念。最後のたたみ方がもったいない。自分の空気にするのがすごい。ボケの度胸がある。自分の空気にしてしまう。
シシガシラもっと面白くなりそうな状態が続いて、爆発はしなかった。後半失速した。禿げネタが続いた。後半に失速した。つかみはよかったけど、ずっと禿げネタなのが残念だった。
さや香すごくおもしろかった。最後に逆転があっておもしろい。つかみから熱の上げ方がうまい。令和ロマンよりは面白くなかったから89点。
カベポスター去年より10点多く入れた。コンビネーション・品が良い。最初のボケまでが長い分、途中でボケ入れないとうまくいかない。4分しかない中でのネタとしては不向き。ネタとしてすごくおもしろかった。もう少し爆発力があれば良かった。数が少なかった。4分に向いていない。惜しい、もったいない。
マユリカ爆笑に向けての振りがうまくいっていない。聞き取りやすく、演技もうまい。途中のどうでもいいボケが当たっていた。もっと入れて欲しかった。最後に爆発があるのがすごい。心地良い笑いの上がり方。
ヤーレンズめちゃめちゃおもしろい。友達に似ていた。うざい系の漫才師。センスが光っている。ずっとおもしろかったが、最後は少しもったいない。ずっと笑って入れられるのが良い。題材が一番わかりやすい。シンプルイズベスト。ずっと面白かった。中に入りたかった。心地よいテンポ。M1によく合ったネタ。ずっとおもしろかった。後半少し笑いが減ったが、みんな疲れていたのでは。全ボケ誰かにはハマるようになっていた。
真空ジェシカ今年は、オリジナリティ・新しさを審査対象にしている。このネタは2人しかできない。ギャグの羅列にみえるが、ちゃんと漫才に戻すのがすごい。ボケが高度だった。ヤーレンズのようにくだらないほうが好きだった。もっとワケのわからないことをやってもよかった。もっと奇抜なことができるのでは。今年はちょうど良いネタだった。
ダンビラムーチョ面白かったが、1曲目にそこまで時間を使わなくても良かったのでは。寄席では一番ウケるが、この場では爆発しなかった。ご年配の方にはウケそう。最初が長かった。入れこめなかった。歌ネタ以外を聞きたかった。1曲目の突っ込みまでが長かった。難しかった。
くらげおもしろかった。良いネタ。ブランド名がでてきて、女子には良いと思う。劇場だとウケると思うが、M1だと点数を入れづらかった。良いネタのパッケージだが、どういう人たちなのかが伝わらなかった。嫌いではないが、なぜウケなかったのかわからない。
モグライダー歌ネタの宿命。歌ネタの宿命だが、展開がわかってしまう。期待していた分、低め。人が出る漫才が好きなので、良かった。残念。もっと笑いが来ても良かった。歌ネタだけど2人らしいネタ。もう少し笑いが来てもよかった。待ち疲れ、練習不足。

過去の分析から、"ボケの数・笑い所の数が多いこと" が評点に影響をしていることはなんとなくわかっていました。今年も、審査員のコメントから、ボケの数・笑い所の数というものが評価の要因になっていそうなことがわかり、納得感が大きかったです。

特にダンビラムーチョ・くらげなどは、ボケがかなり少なかったので、見ていて心配になりました。毎年M1を分析しているM1コンサルタントの身からすると、M1で出すネタとして明らかに合っていなかったです。
今年は、トップバッターの令和ロマンが優勝した、ということが話題でしたが、後半の組がおもしろくなかった(≒点数が低かった)というのも、背景の要因の1つに思います。

審査員それぞれについて、コメントを見ていきましょう。

まずは山田邦子。コメントの薄さが気になります。その辺にいるおばちゃんのような発言しかしていないですよね…。これなら私でもできます。失格。

博多大吉は、後半に大きな笑いが来ているかどうかを重視している。コメントが具体的であり、M1コンサルとしてはありがたい。

サンド富澤も、コメントが具体的。つかみから終わりまで、コンスタントにボケを入れられているかどうかを重視している。

ナイツ塙は、ボケの数・わかりやすさを重視している。そのコンビの特性を考慮したネタになっているかどうか、M1に合ったネタがどうかという、ネタの適正まで踏まえてコメントしている。

海原ともこ。彼女も、序盤・中盤・終盤それぞれで、コンスタントに笑えるかどうかを評価している。中川家礼二やサンド富澤の評価コメントの傾向と、一部似ている部分があります。

中川家礼二。ボケの数・空気感・テンポと、複合的な視点から評価している。

松本人志。ボケの量というよりは、ネタの内容やタイミング・構成などを評価している。他の審査員と比較して、より俯瞰してお笑いをみているような印象を持てます。
ただ、松本の評価は、気になった点もあります。彼は1組目の令和ロマンの採点で90点を付けた後、3組目のさや香の採点の際に、「令和ロマンよりは面白くなかったから89点」と話していました。
その後、彼が90点以上のスコアを付けたコンビは、マユリカ・ヤーレンズ・真空ジェシカ・モグライダーの4組。果たして本当にこの4組に対して、「令和ロマンよりも面白かった」と感じていたのでしょうか…?
個人的には、マユリカ・モグライダーよりも令和ロマンの方が遥かに面白かったので、松本の評価が後半にかけてインフレしている可能性を感じました。
少なくとも、最終決戦に進むことになる令和ロマン・さや香に対して高得点を付けていない松本の評価は、全体の傾向を反映しているとは考えづらく、あまり気にしなくて良いように思います。

上記の評価コメントから、ナイツ塙・サンド富澤・中川家礼二の3名は、似たような採点基準を持っていそうなことが見て取れますね。例年の分析の結果も踏まえて、ボケの回数が採点に影響を及ぼしていそうなことがわかります。時節で、定量的に分析してみましょう。

ボケの数と評価得点の関係について

ボケの数が多いことは、評価点数を高める要因となるのか?

まずはカウントした「ボケ」の定義を説明します。本分析では、「ツッコミとセットになっているボケ」を1セットしてカウントしました。なので、コンビ側が作った「笑い所」のように考えて頂くと良いかもしれません。

ボケの数は、下記のようにカウントしました。
・似たようなボケが2回連続し、まとめて1回突っ込んだ場合は、1回としてカウントする
・ツッコミが入っていないごく小さなボケについては、カウントしない

単純にボケの数をカウントするのでもよかったのですが、細かいボケをカウントするかどうか、ボケとカウントして良いのかどうか不明なものはどうすればよいか、など、カウントするかどうか困るものがあったので、最終的に上記のカウント方法にしました。とはいえこれでも数えるたびに1,2回程度は数値がぶれる可能性はあります。

「ボケの回数」で定義しているので、ある程度客観性を持たせた分析になっているとは思いますが、一部主観も入ってしまっている点はご留意ください。(「おもしろかった回数」などよりは客観性を作れているかと…)

また、定義上、歌ネタなどはカウントが少なくなりがちな部分がありますね。

それでは、カウントしたボケの数と、合計点の値を確認していきます。

ヤーレンズのボケの数が突出していること、真空ジェシカ・令和ロマン・さや香のボケの数が多いことがわかります。一方、得点の低かったマユリカ・ダンビラムーチョ・くらげ、などは、ボケの数がかなり少ないですね。この時点で、本分析で定義している「ボケの数」と「合計点」には、一定の関連があることが伺えます。

上記の値を可視化してみましょう。

横軸にボケの回数、縦軸に合計点を取って、各コンビを点にしてプロットしています。青色の直線は回帰直線といって、すべての点からの二乗誤差が最も小さくなるように引いた直線です。これをみると、ボケが多いほど、合計点も高くなる傾向があることが明白です。相関係数も0.77と、合計点に対する要因分析としては非常に高い数値になっています。評価点を上げるには、ボケの数を増やしましょう。

最終決戦に進んだ さや香・ヤーレンズ・令和ロマンの3組は、どの組もボケの数が15回以上となっています。最終決戦に進むには、15回以上ボケてください。

一方で、最高得点をたたき出していたさや香はボケの数がトップではないこともわかります。当たり前ですが、ボケの数の他にも、ボケの内容(?)など、合計点に影響を与える要因はありそうですね。

ボケの数と合計点の相関は、最終決戦でも成り立つのか?

上の分析で示した、「ボケの数が多いことが評価点数を高める要因である」という主張は、最終決戦でも成り立っているのか、確認してみましょう。
最終決戦では、各審査員が最も面白かったコンビに投票する形式なので、各審査員の持ち点を1として投票し、その合計点による多数決で決定すると読み替えて相関係数も算出します。

(機械学習的にいうと、1stラウンドを学習期間、最終決戦を予測期間的に、主張の汎化性能を確かめてみます)

数値は下記です。可視化まで一気に進みます。

すべてのコンビが、ボケの数が15回以上と、かなりの回数笑い所を入れていることがわかります。また、n数が少ないこともあって少し判断がしづらいですが…、ボケが多い方が、評価も高くなる傾向はあるようですね。

「ボケは多い方が良い」、「ボケが一定以上であれば、それ以外の要因も重要になる」という主張は、最終決戦でも支持されたといって良いでしょう。

まとめ

本分析で得られた知見をまとめます。

ボケの数は多ければ多いほど高得点になるというわけではないが、15回以上はあった方が良い。それを満たせば、あとはボケの内容などの他の要因の影響も強くなってくると考えられる。15回以上ボケたうえで、内容も高めていくことが重要

中川家礼二・ナイツ塙・サンド富澤の3名は、合計点との相関が高く、評価のコメントも共通点が多い。彼らの得点を狙うことが合計点を高めることにつながるため、重要審査員と考えられる。過去の分析と同様の示唆が得られた。

山田邦子と松本人志の評価は合計得点を上げることに直結しないため、あまり気にしなくてよい。松本人志は過去に重要人物として挙げていたこともあるので、それとは異なる示唆となった。

・審査員間の評価のばらつきを抑えるために得点を標準化する考え方もあるが、2023年についていうと、結果は変わらなかった。(おまけの章で説明)

M1に出場される皆様は、上記を意識してネタ作り・ネタ選定を行いましょう。

最後に

私は今年も、M1グランプリ優勝はおろか、決勝進出すら叶いませんでした。決勝ステージに進めた際には1stラウンドを通過する自信がありますが、今はまだ決勝の舞台にすら立てていないので、話になりません。M1出場の夢は挑戦者としてではなく、審査員として目指した方が近道なのではないか、とすら思い始めました。

これを見られている関係者の方がいらっしゃれば、私を8人目の審査員として入れて頂くこと、ご検討頂けないでしょうか?

また、コンサル指導を希望されたい芸人の方がいらっしゃいましたら、X(Twitter)から連絡を頂けますと幸いです。無償で対応致します。

そろそろ人のネタを分析するだけでは飽きてきたので、2024年こそは決勝戦にて、審査員の皆様から評価を頂けますように。

おまけ 単純な審査員合計点での評価は、問題にならないのか?

例年気になっているのが、「各審査員の合計点を算出し、そのまま評価に用いる」評価方法が問題にならないのか、という疑問です。おまけとして、こちらも検証してみましょう。

例えば今だと、山田邦子の評価の標準偏差(≒ 分散、ばらつき)が大きいので、「他の審査員からは評価をされていても、彼女の評価が極端に悪いことによって最終決戦に進出できなくなってしまう」、ということが起こりかねません。

これを軽減するための手法が、統計分析でいうところの"標準化"です。これは、審査員がもつ得点の平均と分散を揃える処理(審査員事に、平均を0、標準偏差が1になるような変換)により、合計点への影響を同一にしようという考え方です。

審査員事に得点を標準化した後の合計点を、下記に示します。

                  合計点
令和ロマン          4.9
シシガシラ         -6.1
さや香              9.4
カベポスター       -2.8
マユリカ            2.6
ヤーレンズ          8.3
真空ジェシカ        1.6
ダンビラムーチョ   -5.0
くらげ             -9.8
モグライダー       -3.2

さや香・ヤーレンズ・令和ロマンと、最終決戦に進出する3組とその順序は変わっていないことがわかります。この分析からは、あくまでも今年に関していうと、合計点による順位付けも問題なかったことがわかりますね。

より公平に採点をするためには、この標準化の考え方は重要に思いますが、TVで放映する際にこのような小数点の結果が出てくるのもよくわからない方も多いと思いますし、ブラックボックスに見えてしまう懸念もなくはないので、今の単純な合計点による審査の方が良い側面が多いかもしれません。

参考文献

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